論文が並んでいても、「何を相談できる研究者か」は伝わらないことがあります
研究者のWebサイトで、よく掲載されているのが研究業績です。
査読論文、著書、学会発表、受賞、競争的研究費。
研究者としての活動を示すうえで、どれも重要な情報です。
一方、企業担当者の立場で研究業績を見ると、少し違う課題が見えてきます。
論文タイトルは並んでいる。
研究実績が豊富なことも分かる。
それでも、
「この研究者の知見は、自社のどんな課題と関係するのだろう」
というところまでは分からないことがあります。
論文が足りないわけではありません。
むしろ情報は十分にあります。
足りないのは、
研究成果と社会側の課題をつなぐ情報
なのかもしれません。
研究業績を削ったり簡略化したりするのではなく、その周囲に「社会から理解するための情報」を追加する。
今回は、そのための5つの整理方法を考えます。
論文一覧には「正確な研究記録」としての役割がある
まず、論文一覧そのものを大きく変える必要はありません。
- 論文タイトル
- 著者
- 掲載誌
- 巻号
- 発表年
- DOI
こうした情報は、研究成果を正確に確認するために必要です。
Researchmapなどで体系的に整理されている情報にも重要な役割があります。
問題は、
論文一覧だけですべての読者へ説明しようとすること
です。
同じ研究分野の人であれば、論文タイトルを見ただけで、
- 何を研究したのか
- どこが新しいのか
- どのような技術と関係するのか
を理解できる場合があります。
しかし、企業の新規事業担当者や経営者、異分野の技術者が同じように理解できるとは限りません。
そこで、
論文そのものと、論文を理解するための入口を分ける
という考え方が必要になります。
1. 論文を「研究テーマ」でまとめる
論文を発表年順に並べる方法は、研究履歴を確認するには分かりやすい整理方法です。
一方、初めて研究者を知った人には、
結局、この研究者は何について研究してきたのか
が見えにくくなることがあります。
そこで、主要な論文を研究テーマごとに整理します。
例えば材料系の研究者であれば、
軽量材料に関する研究
関連論文
- 論文A
- 論文B
- 論文C
耐久性評価に関する研究
関連論文
- 論文D
- 論文E
リサイクル材料に関する研究
関連論文
- 論文F
- 論文G
という構成です。
これだけでも、
「どの領域について知見を蓄積してきた研究者なのか」
が見えやすくなります。
すべての論文を分類する必要はありません。
企業や社会との接点を考えたときに重要な研究テーマから整理する方法でも十分です。
2. 各研究テーマに「一言の説明」を加える
次に、研究テーマそのものを専門外の人にも理解できるようにします。
例えば、
高分子複合材料の界面特性に関する研究
という研究テーマがあったとします。
専門家にとっては十分な表現でも、企業担当者には意味をつかみにくいかもしれません。
そこで、
異なる材料を組み合わせた際の接着性や耐久性について研究しています。軽量化や長寿命化が求められる製品の材料設計にも関係する研究です。
という説明を添えます。
ここで重要なのは、専門用語を消すことではありません。
専門的な名称と、社会側から理解するための説明を併記すること
です。
研究の正確性を保ちながら、入口を広げることができます。
3. 「研究成果」から「社会との接点」を示す
次に考えたいのが、
この研究が、社会のどこにつながるのか
です。
例えば、
画像認識技術の高精度化に関する研究
だけではなく、
製造現場における外観検査、医療画像の解析、設備監視など、画像から状態を判断する技術への応用可能性があります。
と説明します。
ここでは一つ注意があります。
実際には行っていない企業支援や実用化を「実績」として書かないことです。
実際に企業と取り組んだものは、
実績
研究成果から考えられるものは、
応用可能性
として分けて記載します。
研究者の信頼性を守る意味でも、この区別は重要です。
4. 論文の近くに「相談できること」を置く
ここから、研究成果と企業との接点をさらに近づけます。
例えば研究テーマが、
高齢者の認知特性と情報提示
だったとします。
関連論文を掲載した後に、
この研究テーマに関連して相談できること
- 高齢者向け製品の情報表示
- 操作画面の分かりやすさ
- 説明資料の情報設計
- 利用者調査の設計
- 関連研究の知見を用いた専門的な意見
と記載します。
すると、
論文
↓
研究内容
↓
社会との接点
↓
相談テーマ
という流れが生まれます。
企業担当者は、研究者の専門性を自分たちの課題と結びつけて考えやすくなります。
これは研究内容を企業向けに変えることではありません。
研究成果の周囲に、社会から理解するための情報を追加する
という考え方です。
5. 詳細な研究業績への入口を残す
企業向けに分かりやすくすると、
研究業績を簡略化しすぎるのではないか
という心配もあります。
そこで、情報を二段階にします。
Webサイトでは、
主な研究テーマ
↓
研究概要
↓
社会との接点・応用可能性
↓
関連する主要論文
↓
すべての研究業績を見る
という構造にします。
「すべての研究業績を見る」の先には、
- 個人Webサイト内の業績一覧
- Researchmap
などへのリンクを設置します。
すると、
企業担当者は概要から理解できる。
研究者や専門家は詳細まで確認できる。
つまり、
必要な人が、必要な深さまで進める情報構造
を作ることができます。
Before/Afterで考える
例えば現在のWebサイトが、次のような状態だったとします。
Before
Research
専門:画像認識・機械学習
Publications
- 論文A
- 論文B
- 論文C
- 論文D
- 論文E
研究者としての情報は掲載されています。
しかし企業側には、
何に詳しいのか
までは分かっても、
が分かりにくい状態です。
これを少し変えます。
After
Research Theme
画像認識を用いた状態判定
画像データから対象物の特徴や変化を捉え、状態を判定する技術について研究しています。
製造現場での外観検査、設備監視など、目視による判断が行われている領域への応用可能性があります。
関連するご相談
- 画像認識技術の導入可能性
- 画像データを利用した検査方法
- AI導入前の技術的な論点整理
- 関連する研究・技術動向の確認
主な論文
- 論文A
- 論文B
- 論文C
すべての研究業績を見る →
論文は一つも減っていません。
研究内容も変えていません。
追加したのは、
研究成果と社会をつなぐ「説明の層」
です。
企業は論文タイトルではなく「自社との接点」も探している
研究者と企業では、同じ情報を見ても目的が違います。
研究者が論文を見るときは、
- 研究内容
- 研究手法
- 新規性
- 引用関係
などを確認するでしょう。
企業担当者の場合は、それに加えて、
この知見は、自分たちの課題に関係するか
を見ています。
だから企業向けに必要なのは、研究内容を簡単にすることではありません。
研究成果と企業課題の間にある距離を短くすること
です。
その役割を担うのが、
- 研究概要
- 応用可能性
- 相談できること
- 実績
といった情報です。
Webサイトでは「論文データベース」と「研究ストーリー」を分ける
研究者の個人Webサイトを設計するとき、研究業績ページを単なる論文データベースにしない方法もあります。
例えば、
RESEARCH|研究テーマ
何を研究しているのか。
PROJECTS|研究・社会連携
どのような研究やプロジェクトに取り組んできたのか。
PUBLICATIONS|研究業績
論文・著書・学会発表などの詳細。
COLLABORATION|相談・連携
専門知識をどのような形で社会へ提供できるのか。
と役割を分けます。
そうすると、論文は正確な研究記録として残しながら、初めて訪れた人には別の入口を用意できます。
研究者サイトを、
「論文を掲載する場所」から、研究成果の意味を社会へ伝える場所へ
広げることができます。
論文が増えるほど、Webサイトも育てられる
この構造には、もう一つ利点があります。
新しい論文が出たとき、論文一覧に1件追加して終わりではなく、
- 関連する研究テーマへ追加する
- 研究概要を更新する
- 新しい応用可能性を書く
- 社会連携につながった場合は実績として追加する
- 関連する解説記事を書く
というように、一つの研究成果を複数の情報へ展開できます。
つまり、
研究成果の蓄積とWebサイトの成長を連動させる
ことができます。
研究者Webサイトは「一度完成させる制作物」ではなく、
研究活動とともに更新される、研究者自身の知識基盤
になっていきます。
まとめ
論文は、研究者にとって大切な研究成果です。
だからこそ、企業向けに分かりやすくするために削る必要はありません。
必要なのは、その手前に、
- この研究は何を扱っているのか
- 社会のどんな課題と関係するのか
- どんな相談につながるのか
という情報を加えることです。
論文を「企業向けの言葉」に書き換えるのではなく、
論文へたどり着くための入口を増やす。
その方が、研究の正確性と社会への伝わりやすさを両立できます。
研究成果は、発表した時点で終わるものではありません。
Web上で整理され、説明が加わり、新しい研究成果とつながっていけば、過去の論文も現在の企業や社会との新しい接点になり得ます。
研究成果を記録するだけでなく、
研究成果が社会から理解される道をつくる。
研究者自身のWebサイトには、その役割も持たせることができます。